香華(1964年の映画、大傑作)

木下恵介監督の1964年の映画である。有吉佐和子原作。U-NEXT配信で見た。

祖母(田中絹代)、母(乙羽信子)、娘(岡田茉莉子)。

舞台は1900年代の和歌山県から始まる。乙羽の夫(田中の息子)が日露戦争で戦死したとの報が入る。葬式の後、乙羽は別の男(北村和夫)の後妻に入り、一子をもうける。田中は半狂乱で憤死する。

北村と乙羽は東京に出るが、食えず、静岡に流れて、娘は芸者修業、母は花魁になるため遊郭に売られる。遊郭主人は柳栄二郎、女将は市川翠扇。たまたま娘は母を見てしまう。母は客の子を孕んでしまい、毎日お茶を挽く日々。生まれた息子は誰かに引き取られる。

娘は16で東京の芸者置屋に売られ、そこで一本を取る。ここから岡田登場。岡田をめぐって華族宇佐美淳也)と若手実業家(岡田英介)が争うが、結局、華族が旦那になる。旦那と寝床を共にするが、岡田は「旦那と私の間には何もない」と言う。岡田は、近くの茶屋で陸軍士官学校の学生(加藤剛)と恋に落ちる。先輩芸者の杉村春子は「恋は芸の肥やしだから遊ぶことはいいけれど、あんたは本気になりやすいからやめろ」と釘を刺す。岡田は加藤と結婚するため、一生懸命働いて借金を返すと誓う。ここで関東大震災が来る。

震災後、岡田は自立して、旦那に出資してもらい始めた旅館の経営も成功する。ある日、加藤が来て「君とは結婚できない。君が芸者だったことが問題ではないが、ようやく親に本気になってもらい、興信所に君の親族を調べさせたら結婚できないことになった」と告げる。言下に母が遊女であったことが問題とほのめかされ、岡田は絶望しつつ受け入れ、加藤と別れる。その後、岡田は若手実業家の申し出を受け入れ妾となり、高齢で亡くなった旦那の葬式に実業家の妻を装って参列するが、妻でない妾にはしょせん何の権利もない、と嘆く。

時は過ぎ、太平洋戦争の戦火で旅館は焼かれ、岡田と乙羽は防空壕で暮らしている。この間、母は和歌山の実家の使用人だった少年で今は大阪で時計屋を営んでいる三木のり平の後妻になっていたが、三木の親族と折り合いが悪く、娘の家との間を行ったり来たりする生活。岡田は乙羽に「私はおかあさんのせいで結婚できないのに、おかあさんはいったい何回結婚して何人子供産んでるのよ!?」と愚痴る。

終戦。陸軍大佐に昇進していた加藤がB級戦犯として処刑されるというニュースを新聞で知る。役所に日参して、巣鴨拘置所の加藤と何とか面会できないか努力する。役所の職員(内藤武敏)が「定員5人だが、一人でも欠ける場合は通知します」と親切な対応。ある日、ついに加藤との面会がかなう。加藤の妻(奈良岡朋子)と3人の息子娘から白い目で見られる。あらためて日陰の身のみじめさを痛感する岡田。加藤は間もなく絞首刑になる。

或る日岡田は疲労で倒れ入院する。回復しつつある病床で、三木から「こいさん(母)は交通事故で亡くなりました」と伝えられる。岡田は母の希望通り、遺骨を和歌山の実家の父の墓に納めようと訪ねるが、納骨を拒否される。

昭和39年、岡田は似たような身の上の旅館経営者の友人女性を訪ね、養子から裏切られたという愚痴を聞かされ、実子のない身の上を悲しむ。