増税で日本経済が持続的に元気になるそうです

元重先生の大胆な御提言。

というのも、大方の経済学者、特にアメリカでマクロ経済学を学んだ学者は「税金はとにかくよくない」と言いますからね。

もっとも、先生は貿易論が御専門で、マクロ経済学者が囚われている「しがらみ」とは無縁なのでしょう。

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http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/100213/fnc1002130248001-n1.htm

私は、増税できないかぎり、日本の経済を持続的な形で元気にすることはできないと考えている。

 残念ながら、国民の中には増税をしたら景気が悪くなる、という間違った考え方にとらわれている人が多いようだ。たしかに増税をしてその税収をドブに捨てれば景気は悪くなるだろうが、税収の多くを支出すれば景気は良くなるはずである。少なくとも基礎的なケインズ経済学では、増税によって増やす財政支出は乗数1で景気刺激効果を持つとされている。

 日本国民の税負担率は米国などと並んで先進国の中でもっとも低い水準にある。税負担が低いことは誇るべき面もあるが、その結果、医療、教育、育児支援、科学技術まで先進国の中でももっとも貧弱な公的支援の状況である。その上、子育て支援金・高速道路無料化・農家への戸別所得補償・石油への暫定税率見直しなどで大幅な財源が必要となり、事業仕分けという名の歳出見直しが続けられている。その結果、医療、教育、科学技術などは、さらに悲惨な状況に追い込まれようとしている。

 行政組織や政府の支出に無駄が存在することは確かだろう。それを徹底的に見直すことも重要だ。しかし、行政の無駄が十分に是正されるまで増税を行わないという姿勢をとっていたのでは、その間に日本経済は完全におかしくなってしまう。

 言うまでもなく、増税の基本は消費税率引き上げだろう。今、消費税率を引き上げても、景気を悪化させない方法がある。たとえば、消費税率を現行の5%から10%に引き上げたとしてみよう。それで12兆5千億円ほどの税収の増加が見込まれる。重要なことはこの税収をどう活用するのかということだ。将来的にはその8割程度を少子高齢化対策、環境、科学技術などの財政支出に回し、残りは借金の返済に回していくということになるのだ。景気に配慮しながら財政再建を果たすということなら、そうした歳出増と借金の返済のバランスが必要となる。

 ただ、当面は景気に配慮するため、12兆5千億円の税収を全部、国民に還付してしまう方法もある。1人あたり10万円、4人家族なら毎年40万円支給される計算だ。消費税が10%に上がっても、1人あたり10万円の還付が行われれば、景気にはプラスに働くだろう。所得格差を少しは解消する手段ともなる。

 もちろん、所得還付を実現するために消費税率を上げるわけではない。日本経済の長期設計を考えれば、一刻も早く消費税率を引き上げる必要があるからだ。ただ、それが当面の景気にマイナスに働くことがあってはいけないので、景気配慮からしばらくは所得還付という対応を行うだけだ。

 財政問題というとどうしても政府が現在抱えている債務にだけ目がいきがちだ。しかし、日本が抱えるもっと重要な財政問題少子高齢化の下で今後必要となる財源をどう確保するのかということだ。医療・年金・介護などの歳出を増やしていかなければ、安心で健全な社会を維持することはできない。そしてそうした分野への支出も公共事業などと同じで景気刺激効果を持つはずだ。増税とはより潤沢な歳出を行うための手段であるということをよく考えてみる必要がある。(いとう もとしげ)