やはり「40歳定年制」?

これが問題の報告書ですが、この13ページを読む限り、前述の日経記事の取り上げ方もそれほどやり過ぎとは言えない気がする。

もっとも、これは内閣府の一研究会の一部会の試案にすぎず、政権として何か決めた、というわけではないのだけれど。

むしろ「有期雇用を原則」(12ページ)というのが問題という気がする。

今は無期雇用というけれど、企業の側から解雇できないというわけではない。これに対して、有期雇用の場合、企業の側に明示的な雇用義務が発生する。もちろん労働者の側に勤務義務が発生するかという問題もあるけれど、いずれにしても、この研究会が考えているような「20年」なんていう長期の有期雇用を企業が提示するとは思えない。

結局、なあなあで変更でき融通が利く、現行の「無期雇用」の方が、労働者にも企業にも好まれるということになりそうだが。

元々「日本の大企業は官僚制である」というのが、森嶋通夫大先生の喝破したところである。伝統的な大企業というのは幹部社員というのを中央官庁のキャリアみたいに育ててきたわけであり、民間と公務員に大差はなかったのである。いわゆる「就職勝ち組」の学生はそういう大企業に行くのであるが、今後はどうなるんだろうね。

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http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120706/shiryo3.pdf

<経済活動を活性化させ、外的環境変化により柔軟に対応していくためには、雇用ルール
をより柔軟にし、企業活動の新陳代謝を更に促進させていく必要がある。上述した再教育・
再就職の支援を積極的に行いつつ、これからは、期限の定めのない雇用契約を正規とする
のではなく、有期を基本とした雇用契約とすべきである。この点については、希望者によ
る(出向ではない)他省庁への移籍や金銭解雇、積極的な中途採用を、まずは公務員から
始め、民間企業に広げていくというのも一つの方策であろう。

また、制度は転職など就労選択にできるだけ中立的になるようにすべきである。この観
点から、たとえば長期勤続者を優遇する退職金への税制優遇といった制度等も見直しが進
められるべきである。

有期を基本とした上述の雇用契約が実現するまでの過渡期の段階において、全ての国民
が75 歳まで働ける社会を形成するためには、定年制の概念も見直す必要もある。
現在、企業の定年年齢の引き上げが進んでいるが、こうした制度改正は、一つの企業内
に人材を固定化させ、企業内の新陳代謝を阻害し、企業の競争力を低下させることで、か
えって雇用の減少に繋がる恐れがある。

人生で2~3回程度転職することが普通になる社会を目指すためには、むしろ定年を引
き下げることが必要である。具体的には、入社から20 年目以降であれば、労使が自由に定
年年齢を設定できるようにすべきである(最速では40 歳定年制を認める)。ただし、早期
定年制を選択した企業には、たとえば定年後1~2年程度の所得補償を義務づけ社員の再
教育機会を保障することで、労働者の労働移転を円滑化すべきである。

もちろん、20 年目に定年になってもそれでリタイアするのではなく、再教育機会を得た
上で新たな職場に移転するあるいは同じ職場で再度雇用契約を結ぶことが想定されている。
このような制度にすることにより、新陳代謝が促進されるとともに、学び直しによって多
くの労働者が新しい環境に合った能力を身につけることが可能になる。

日本企業の競争力の一つは、長期雇用に支えられたスキル蓄積や団結力といわれている。
が、現在でも、20 年目以降は、管理職としてマネージメントを行う社員、職場内でプレー
ヤーとして活動する社員、それまでの経験を生かして転職する社員など、社員の特性に応
じてキャリアパスが複線化している。このため、20 年目を基準にすることは、現在の企業
経営とも整合的である。

一方、労働市場の流動化が実現するまでは、転職を迫られる社員のリスクが大きいため、
激変緩和措置として、企業に対して1~2年程度の所得補償を義務づけるとともに、雇用
保険から再教育訓練給付を支給することで、スムーズな労働移転を確保すべきである。ま
た、40 歳で初めて社外に出ることは難しい可能性があり、事前準備として、入社10 年目程
度の労働者に「所得補償付きサバティカル休暇」を取得することを権利として認め、若い
段階から社外との交流を拡大することを促進すべきある。>