逗子ストーカー殺人事件

これ、テレビだけ見ていると、警察が軽率にも名前を読み上げたおかげで犠牲者が出た、という話になっているけれど、そう単純でもないようですね。

冤罪防止の観点から、警察は、被疑者が被害者をしっかり特定できるように、情報を伝えるべきというのもその通りですし。

これ、本人には教えず弁護士にのみ開示すればよい、みたいな意見もあるようですが、弁護士が本人に情報を隠せるというのも無理でしょう。だって、弁護士は全面的に被疑者の立場に立つのが仕事なんだから、あらかじめ被疑者を犯罪者扱いできるわけがない。

世間は、最終的にこの男が殺人に及んだという事実から遡及して「予想できたはずだ」というわけですが、膨大にある脅迫事件の時点から将来の殺人犯として扱う実務というのは、法律的には難しいのではないか。

後段、予防拘禁的な措置ですが、ストーカーをしただけで死刑にするわけにいかず、短期的な拘禁措置を繰り返すとかえって加害者のそういう感情を強めるという問題もある。

そもそもストーカーって客観的認定が難しい。拘禁措置を取るとなると、被害者として訴える人の主張を聴くだけで拘束するわけにはいかないでしょう。

治療が必要というのももっともだが、ストーカー男にとっては、治療も拘禁も物理的に同じ状態だからね。

さて、難しいな。

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http://blogos.com/article/50050/?axis=g:0

<被害者の住所ですが、被疑事実を特定するためのものですから、安易にこれを伝えなくてよいということにはなりません。

 全くのえん罪でしたら、被疑者の防御ができなくなります。ただ、「私は、誰にもメールは送っていない。」というだけの弁解しかできないことになります。

 容疑者が被害者の旧姓でメールを送信しているということであれば、防御の観点からは、大きな問題は生じません。

 被害者の住所ですが、メールアドレスで特定されていれば、防御の観点からは、大きな問題は生じません。この場合、被害者がどこに住んでいるのかということは、犯罪行為としての重要性はあまりないともいえます。

 問題になるとすれば、被害者の特定の問題であり、逮捕状に旧姓の、しかも住所地を記載しないだけのもので、被害者として特定されてるかといえば、大いに疑問はあります。
 この点が技術的に可能なのかどうか(例えば、必要的被疑者弁護の対象とするなど。)検討されるべきことです。

 ところで、このような技術的なことをクリアーすれば、今回の事件は発生しなかったのでしょうか。
 先般、千葉県警が北海道に温泉旅行に行くから被害届の受理を1週間、遅らせたという事件がありましたが、あの事件も同じで、その時点で被害届を受理していれば、あの殺人事件を防げていたのかという問題です。
「警察は、何故、被害届(告訴状)を受理したがらない?」

 この問題は、被害者にとっては、一生涯、ストーカーから隠れて生活していかなければならないということでもあります。

 今回の件では、警察が居所の端緒を示したことが、被害者の居所を突き止めたきっかけではないかとも言われていますが、容疑者はインターネットでも「捜索」していたようですし、興信所にも依頼したような報道もあります。

 一昔前と違って、日本国内の移動は簡単になり(自動車の普及が何よりも大きい。)、またインターネットの発達により、ストーカーが行いやすくなったという事情があります。

 興信所の問題でいえば、現在は、探偵業法(2006年)により届出制となっていますが、ほとんど監督されていないのが実情です。

 先般、行政書士らが戸籍謄本など不正取得容疑で逮捕された事件がありました(2012年9月27日)。
 そこでは、行政書士にも認められた職務上請求書により、戸籍謄本等が違法に取得されたものですが、今回の事件において、このような住民票などの不正取得などがなかったのかどうか、職務上請求書の違法な使われ方がなかったのかどうか、徹底的に検証すべきでしょう。

 さらに問題なのは、このようなストーカーが最後には自ら自殺してしまうことです。
 事後的な処罰、特に死刑という刑罰も全くもって、抑止にはなっていないという現実です。

 最初から殺害目的ならもちろんのこと、被害者のところへ行き、最後の通告(ヨリを戻そうというような)をし、それを拒絶されると、殺して自分も死ぬ、という究極の選択をするのでしょう。そうなってくると、ストーカー規制法違反で、例えば、数年間、刑務所に収監されていたとしても全く抑止にはならないわけで、出所後、同じような行為をしたりすることになり、一時的な隔離という意味以上のものはありません。

 性犯罪者に対しては出所後、居場所の報告を義務づけたり、GPS所持を義務づけるなどという議論もありますが、そのような処遇は非常に問題と考えていますが、他方で、ストーカー事件においては、ここまで執着するのは、精神疾患ともいえ、別途の対処が必要ではないかと思います。
 性犯罪と異なり、特定の人に向けられているという点が非常に特徴的です。

 もちろん、問題なのは、その行為者に何の問題もないのに(真実、更生した場合を含む)、予防拘禁のようなことをすることです。人権侵害も甚だしくなります。犯罪行為をしそうだ、という視点で拘束することは予防拘禁そのものであり、不可能なことは当然です。

 またストーカー行為をしたから、無期懲役とか終身刑(これなら被害者は安心できます。)というのは、行為に比して刑罰が重きに過ぎ、刑罰(量刑)としては、あり得ず、予防拘禁と同じになってしまいます。

 それでも、二度目、三度目という場合に、量刑が上がっていくことは当然ですが、その間に逗子市の事件のような被害者を殺して当人は自殺するという選択をされてしまうと防ぎようがありません。

 現在、求めれていることは、このような事件を未然に防ぐことであり、あまりに現代的なこのストーカー行為を行う者の心理、精神構造を分析し、対処方法を確立することでしょう。私は、治療行為も必要になってくるのではないか、その場合には一定の隔離も不可避になってくるのではないかと思います。

 これを単なるキチガイ扱いして死刑にすればいいんだという発想では、第二、第三のストーカー被害を防ぐことはできません。
 ましてや警察の対応を叩くだけでも防ぐことはできません。 >