投資銀行バブルの終焉

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この本のアマゾン読者レビュー:

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<・プロのディーラーたちは、サブプライムCDOなどに高いリスクがある、というのはもちろんみんな分かっている。だけど自分たちの業績は、リターンでしか比較されない。しかも、投資するのは自分の金じゃない。だったら、0.001%の差だって、誰でも高いリスクを取り に行くという話。

・リスクを避けたところで、他のディーラーにリターンでちょっとでも負ければ評価されないなら、攻めて攻めまくるでしょう。危機を招いたのは管理の甘さとか現場の能力ではなくて、彼らにおカネを預けた投資銀行側の評価基準の問題が本質である。

・ディーラーは本当に、朝から晩までそういう感覚で生きていますから。自分の金じゃないし、元手が必要ならば、実績さえあればすぐ貸してくれるし、それでうまくいけば自にもどーんとお金が入ってくるし、これはもうやめられない麻薬のようなエンドレスのゲームだった。

・人の金でばくちをするんだったら、誰でもハイリスク・ハイリターンのあるところに賭ける。それで失敗して会社が倒産しても、今まで儲けた金を返せ、とは言われないしね。
 冷静に考えると夢みたいな商売だった。

・現場では、「表だったら俺の勝ち、裏だったらあんたの負け」だと誰かが言っていた。
 普通だったら表で勝ちで裏で負けなんですけど、「表なら俺が儲かって、裏だったらあんたが損をする、俺は関係ない。これが金融のゲームだ」と、そういうことを言っている連中がいた。>

ファンド・マネージャーの報酬体系が問題であることは、すでにRajanあたりが指摘しているわけです。
要するに、失敗した時のペナルティが小さすぎる。
失敗しても高々解雇されるだけで、発生した損失を借金として背負わされるわけでもないから、
どんどん際限なくリスクを取る。

これが定額報酬だと、逆に誰もリスクを取らなくなる。
失敗したら解雇されるのに、定額報酬じゃバカバカしくてやってられない。

実際、報酬体系の設計は、非常に難しい。

一般に、成果の差が大きく、成果を出した人が容易に特定できる場合には
成果主義賃金の導入がよいと考えられている。

反対に、成果の差が小さく、成果と努力の関係が不明瞭である場合には、
定額報酬でよい。

公務員の報酬体系は通常、定額で、最近ではこれを成果主義にしろという議論が流行っている。
しかし、基本的には、普通に働いている個人の公務員の成果なんて、目に見えるものではない。
上司の部下に対するエコヒイキに過ぎない場合もある。

にもかかわらず、たまに何か、目に見える失敗が起こる。
最近では、そういう公務員を厳しく処罰せよ、という議論が盛ん。
そうなると、何かよいことをしようという公務員は、
ほとんどいなくなるでしょう。
もちろん、世間の標準的期待は、公務員はよいことなんかするな、悪いことをしなければ十分、
かもしれませんが。

教員の報酬も定額。
最近はイジメや学力などで、「きめ細かい対応」を求められる。
しかし、教育というのはデリケートなもので、
きめ細かく対応しろと言っても、具体的にどういう対応をすれば「成果」が上がるかについては、
専門家の間でも意見が分かれる。
にもかかわらず最近では、問題が起きると学校や教師の責任が厳しく問われる。
がんばってあたりまえ、報酬は増えずなのに、失敗すれば責任を問われるというのでは、
やる気を失う。

そもそも、公務員や教員は、投資銀行とは異なり、
「できてあたりまえ」の仕事とみなされている。
リスクを取ったり意欲的なことを試みても、成果との因果関係が明らかでないので
努力した人が評価されるとは限らない。
だから定額報酬は自然である。
こういうところで失敗時のペナルティを引き上げれば、やる気は低下するでしょうね。

同様のことは医師の報酬についても言える。

最近では、病気は治ってあたりまえという意識が国民に定着している。
したがって、治らなかったり死んだりすれば、
たちどころに医療過誤とみなされ、医師の過失批判が起こる。
一方、医師の報酬体系は定額なので、
やる気を出しても報酬が増えるわけではない。
それなら、最初からリスクのある患者は受け入れない方が賢いことになる。

医師が医療過誤で解雇される場合、たいてい医師免許剥奪をともなう。
投資銀行マンと異なり、ペナルティは相当大きい。
これまた医師が危険な患者を受け入れないインセンティブになる。

このように、投資銀行マンと公務員と教員と医師、無関係とは言えないんですよ。