東電をどう分割しようと国民負担が減るわけではない

ノブ様御紹介の、発電部門と送電網部門を分離してどちらかを売る、という話ですが、

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51706784.html

http://r-center.grips.ac.jp/JPDiscussionPapersDetails/201/

むろん、このお二人はまともな学者ですが、誤解のないように確認すると、東電を分割して負担を付け替えれば、負担総額が減るなんてことを、経済学者が言うわけがない。

これは国土や社会資本や環境が破壊された実損なんですよ。被害者がそのまま負担するか、株主や債権者や公務員が負担するか、電力料金値上げや税金値上げで広く薄く国民が負担するか、その組み合わせの問題です。

分割して、発電部門か送電網部門を売って、売却資金で賠償金を払えば誰も負担しないような言い方は間違っています。目先、株主も債権者も公務員も一般国民も負担しないように見える事態は、買ってくれる株主が負担しているということにすぎない。

市場メカニズムが機能するとすれば、まともな価格で売れるのは送電網でしょう。原発その他発電設備なんて、二束三文で、賠償減資にならない。

仮に孫正義あたりが買ってくれて、送電網会社が純粋な民間企業になるとはどういうことでしょう?

民間が送電網なら買ってくれるのは、これが売手独占(monopoly)と買手独占(monopsony)を併せ持った最強の独占企業だからですよ。これまで電力会社が批判されてきたのも、送電網を握ることによって他社の発電への参入を妨げてきたからです。

逆に言えば、コストが大きくてもうからない発電事業へ、儲かる送電事業から利益移転をしてきたからこそ、電力会社の経営というのはこれまで成り立ってきたのです。

民営化された送電網会社は何をするでしょうか。できるだけ安く電力を買い叩き、できるだけ高く家計や企業に売ろうとするでしょう。だって、独占企業なんですから。株主に対する責任がありますから。つまり、仮に送電網会社の株主が賠償を払ってくれるとして、その負担は、電力料金として消費者に転嫁されるはずです。

消費者が安い電力料金をこれまでのように享受したかったら、これまで通り厳しい政府の規制が、送電網会社に対して行われる必要がある。

そういうことなら、投資家は最初から、民間向けに売り出される送電網会社に対して高くは入札しないでしょう。

一つの考え方として、規制はかけないけれど、賠償負担付きで送電網を売る、というやり方もあります。しかしおそらく、これでは大した価格では売れないでしょう。

誰もが欲しがっているのは賠償責任なしの送電網会社です。しかし、賠償責任なしだからといって、送電網会社の株主が負担なしで済むわけではない。高く売れれば賠償原資になるけれど、それは要するに、東電の現株主から送電網会社の株主に負担を付け替えているだけ。送電網会社の株主には、当然、負担をさらに消費者に付け替える権利がある。

送電網と発電設備を分離すれば、発電事業に新規参入が起こり、競争を通じて電力料金が下がる、という可能性はもちろんあります。しかし、その場合に参入する発電会社の発電量はごく小規模でしょう。一基あたりの発電量が大きい原発が停止・廃止されていく過程で、そんなに大きな値下げ効果が期待できるとは思われません。そもそも、電力会社が地域独占なのは、規模の経済が大きいということを忘れてはいけない。

私は、何かにつけて、負担の必要を説く議論を耳から遠ざけ、負担なしで利益だけ得られるという快い議論ばかり聴いてきたことが、日本の停滞を招いていると思っています。リフレ派、上げ潮派、に続いて、「東電分割派」もその一つではないか。

それでもって「日本人を信じてる」とお題目だけ唱えているのが、今の日本人です。