ベイズの定理

蔵研也ブログより。

うん、おもしろいね。

検査で陽性と出たのに、その後なんともないなんてこと、よくあるようだ。こういう事実の背景にはこういうメカニズムがあるというわけ。

例えば、例1の計算は、こうでしょう。

0.001×0.999÷(0.001×0.999+0.999×0.001)=0.5

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http://d.hatena.ne.jp/kurakenya/20110711

<本書はリスク心理学の視点から、ベイズの定理がいかに実際の病気の検査や、あるいは法廷での証拠の解釈に役立つか、を説明する。

1,例えば、HIV患者が陽性反応を99.9%の確率で示し、罹患していない場合にも99.9%の確率で陰性であるとする。自分が陽性であったとしても、全人口の0.1%しか罹患率がないなら、自分が罹患している可能性は50%でしかない。この例からは、まれな病気の場合、一度の検査を盲信するのは、危険であることがわかる。

2,乳ガンのX線検査では、偽陽性である確率が90%にもなるため、50歳以前の全女性を対象にした検査をする価値は疑わしい。頻繁に起こる検査で偽陽性である場合には精神的な不安を感じるというコストがある。X線被爆によって、ガンが実際に発生してしまうというリスクもある。また実際に乳ガンである場合でも、進行性のない良性のものである可能性も高いのに、生検を受けるために大きな傷を残したり、乳房を切除したりすることが大きなコストとなっているためである。

3,法廷において、犯人の特性(DNAタイプなど)を0.1%の人しか持っていないという事実があり、被告がその特性を持っているとしても、被告が犯人であるという可能性は、「99.9%」ではない。犯人である可能性のある個人の人口が(例えば)10万人いるなら、そのうち100人はその特性を持っているのだから、被告が犯人である確率は1%である。

といったふうに、ベイズの定理が説明される。

この中で、医者の多く、あるいは法律家のほとんどがベイズの定理を全く使えないか、あるいはそれを自分に都合のいい主張や論証に合わせるために無視しているという事実や実証研究、逸話が数多く紹介される。本来は、最高の知性であることを期待されている医師や法律家がこういった知識をもっていない、あるいは理解していないというのは興味深い。

さらに続けて著者は、こういった統計数値は理解するのが難しいが、「100万人当たり何人がなにで、そのうち、何人がどうだ」という自然言語に直すと、理解も容易になり、忘れることもないという実験を示す。自然言語による説明に置き換えることで、統計数値に関する数字オンチをなおすることができると主張するのである。

著者の意見として、「知ることを恐れるなかれ」というカントの警句が印象に残る。

果たして、多くの人はそんなに客観的に正しい知識や方法に興味があるのだろうか?無知でありたい、それでいいのだ、という感覚、感情、価値観はひじょうに多くの人々に広がっているように思われる。でなくては、少なくとも医学的なリスクについては自分で知ることが経済的な利益になりそうなものであるにもかかわらず、なぜ人々は検査のリスクについて知ろうとしないのか?

はたまた、なぜこういったリスク心理学の好著がまったく無名のままに終わってしまっているのか? 翻って、なぜベイズの定理を知っている日本人が100人に一人もいないのか?大きなナゾを残す好著である。>