農業パネル@日本経済学会

土日は筑波大学日本経済学会

土曜日は2つのパネル・ディスカッションが行われました。「非伝統的金融政策」と「日本の農業」の2本立てでしたが、昨今のTPP騒ぎのおかげか、農業が金融政策の2倍近い観客を集めて、活気がありそうだったので、農業を見ました。

http://www.jeameetings.org/2011f/program02.html

パネル討論 14:10-16:10

パネル討論機日本の農業をどうするか 2H101
座長  東京大学 伊藤元重
全国農業協同組合中央会 甲斐野新一郎
慶應大学 木村福成
明治学院大学 神門善久
東京大学 鈴木宣弘

パネリストの人選がよく、あるべき論戦が起こり、司会者(元重先生)もうまかったので、大いに楽しめました。論戦はもっぱら、関税撤廃に伴い現在のコメ生産を維持するためにどれほどの補助金が必要かをめぐって、鈴木さんと木村さんの間で戦われました。(鈴木さんが三番目に、木村さんが4番目に、それぞれ話した)

そもそも、世界の流れは関税から補助金(農家への直接支払)であるという点について両者の対立はなく、関税を撤廃するなら、鈴木さんは1兆6千億円が必要というのに対し、木村さんは6千億円で十分と主張するという違いでした。

鈴木さんは、毎年こんな財政負担は無理だから関税撤廃は無理、これに対して木村さんは、6千億円程度なら補助可能なんだから経済外交を優先すべきというわけです。

たぶん、両者ともに結論ありきではあったと思います。仮に必要な補助金の額について鈴木さんが正しかったとして木村さんがTPP反対に回ることはないでしょう。同様に、木村さんの言うとおり補助金が採算可能であっても、鈴木さんがTPP反対の立場を変えることはなさそうだ。

鈴木さんのスライドは、ほぼ、これを転用したものでした。

http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/10/tpp_tpp.html

木村さんのスライドを探すのはちょっと難しいが、例えば、

http://www.sentaku.co.jp/interview/post-1372.php

<木村 農林水産省は農業自由化による「被害額」を八兆円などと試算しているが、根拠は極めて薄い。一円でも安い米が輸入されれば、日本の米作がただちに消滅するという前提で意図的に膨らませた「被害額」で、こうした数字のトリックに騙されてはいけない。確かに自由化で米価は内外価格差分程度は下がるだろうが、仮に下落分を全額国が補償したとしても、たかだか六千億円程度の財政負担で済む。ましてや日本の農業の壊滅などという大袈裟な話ではない。もともとコメ農家保護の原資も消費者が負担してきたもので、米価の下落は単にその分を消費者に返してもらうだけのことなのだ。そのうえ、さらにコメ農家に手厚い補償をつけるなど、まさに亡国の政策だ。本当に「被害」を受けているのは消費者であり、守られるのはコメ農家ばかりだ。>

これを読む限り、バリバリの「新自由主義者」という感じですが、パネルでの語り口ははるかにソフトで、農業保護が必要という相手の土俵にあえて立ち、保護の方法を関税から生産補助金というより効率的で厚生損失の低いものに変えるべきと説いていました。実に頭のよい人だと思いましたね。