研究者の賃金

これまた、「研究とは趣味であり、好きなことをして給料もらっているんだから、安くてもいいんじゃない」という世間に漠然と広がっている考え方の反映例でしょう。

最近では、これが公務員にもあてはめられ、「国家のために働くのが好きなんだから、賃金は安くてもいいじゃない」というマスコミ論調になっているわけですな。

研究者の例でいうと、理系の場合、研究設備から切り離された研究者というのは考えられないでしょうが、文系の場合は、そういう人も研究者としてありうるので、非常勤だけで食べている人の賃金がしばしば問題になる。

医者の場合、時給1万円以上と言われていますよね。だから8時間アルバイトすれば8万円、月4回で32万円(マイナス所得税)もらえる。これなら、大学でもらえる給料が同等になる可能性は大いにありますね。病院経営者としても、たとえ時給1万円でも、正社員の医者を一人雇うよりアルバイトを活用した方がコストが安くなるから、こういうシステムが成り立っている。

医者でも、実質的に非常勤だけみたいな人は相当いるんじゃないでしょうか。規制緩和が進んだ歯科医の場合、そういう人が多そうな気がする。それでも時給が高いので、悲惨な暮らしということはない。

これに対して研究者の場合、非常勤の賃金は、よくて1コマ1万円でしょう。月4回やっても4万円もらうのは難しい。週8コマ担当しないと32万円(マイナス所得税)にはならない。週8コマ講義というのはとてもきつい。実際には1コマ1万円ももらえませんから、週10コマ以上教えないと、まともな月給にはならない。それどころか、週10コマも教えたら、まともな研究はできないでしょう。

専任教員の場合でも、政府の高等教育政策の根本思想は「教員個人はカスミを食っていればよい」というものなので、研究費をいくら獲得しても教員の生活がよくなるわけではない。

しかし、発想を転換して、例えば研究費の10%を賃金に加えてもよい、ということにしたら、研究費獲得競争はもっと熾烈になり、研究成果ももっと上がるようになると思います。別に研究費の一部を賃金として支払わなくても、研究費の獲得額に応じて大学がボーナスを支払うというやり方もある。間接費という収入が大学当局に入るわけだからね。

文系だったら年額100万円程度がせいぜいだから、1割を賃金として払ってよいとしても、たった10万円にすぎません。しかし、理系の場合は研究費の総額が大きいので、例えば有名教授本人の執行分が1億円、なんてことがありうるでしょう。その1割を賃金としてもらえることができるとすれば、なんと1000万円です。

これを法外と考えるのは日本人的発想ですよ。アメリカだったら、1億円の研究費の格差にはその10分の1以上の賃金格差がかならずついてくるはずです。

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http://news.livedoor.com/article/detail/6046581/

<たとえば外科医の場合、大学では外来、入院診療、手術、そして研究と、縦横無尽に活躍します。ハイレベルな手術もするでしょうし、最先端の研究をすることもあるでしょう。医者として高いレベル、高い質の仕事をすると同時に、多くの勤務時間を注ぐことになります。無論、そういったハイレベルの仕事を求めて大学で働くのですが、かたや、一方で、「大学でやりたい仕事をするんだから給料は仕方ない」となりうるのが日本の現状なのです。

もちろん、良い仕事、質の高い仕事をすれば、それに見合った給料となるのが自然な考え方だと思うのですが、それと真逆なのです。大学で週の時間の大半を費やして働いて得た一ヶ月分の給料が、週に一回、半日だけの外来パートの給料と同じであったりします。ただ、のんびりと外来をしにいくだけのパートであったり、ほとんどお茶をひいているだけのような当直のパートが、一ヶ月分の大学からの給料と同じだったりするのです。

これって、一般的な感覚でいったらかなりおかしな状況ですよね。パートの時給が高いという反面、メインで働いている職場の時給は、どんな職業よりも安いのです。パートでそんなに給料があるならいいじゃない、と思われるかもしれませんが、こういった状況は、医者のモチベーションを下げる要因となりうると思うのです。

向上心を持ってハイレベルな仕事を求めるよりも、楽で割のいいパートをしていた方が収入になる。となってしまうからです。向上心を挫くような仕組みになっているのです。もちろんパートでの診療だって責任感をもって、しっかりとした医療をしているわけですが、外来だけと思って仕事をしているのと、外来から入院まで自分が診ると想定して仕事をしているのとではやはり多少は違います。

普段から一番力を注いでいる仕事の給与が最も少ないというのは、やはりむなしいものですよね。もちろん、どこの大学もこういった仕組みという訳ではないのですが、こういったところが多いのは現実なんです。一つの歪みでしょう。 >