電力会社の将来イメージ

5月10日(木)付日経新聞「経済教室」に、八田先生の東電処理案が詳しく出ています。

私は元々、八田さんの発言に懐疑的でしたし、大方の経済学者が賛成するものではないだろうと思っていましたが、ここでの説明はかなり納得のいくものです。

八田さんの発言で特に違和感を感じていたのは、「電気代を上げなくても送発電分離で賠償金を支払える」と繰り返していたことです。過日の学会パネルでも明らかに値上げに反対していた。

ここではどうも、その立場を撤回したようです。賠償(+他除染、廃炉の費用)は新設のエネルギー税で、ということになっている。実質的に電気代値上げを容認したということです。「送発電分離でお金が出てくる」的な根拠のない楽観論を助長する議論を撤回してくださったのは何より。

それでも、政府が課す「エネルギー税」で賠償する(+その他除染、廃炉の費用負担をまかなう)というのは、かえって政治的に困難ではないでしょうか。

マスコミがまき散らしている暴論は、値上げせずリストラで東電がもろもろの出費を賄え、というものです。原発事故による債務を東電から切り離し、一般国民の負担で処理することが、マスコミの支持を得られるか?

東電を財務的にきれいにして、従業員の士気を取り戻してやった方が効率的、という意見には賛成します。

原発をすべて国有化し、国策として運営するというのはありうると思います。元々、原発を始めるにあたって、政府と電力会社の間で暗闘がありました。電力会社がこれだけヘタ打った以上、政府が主導権を取るのは自然なことです。

電力会社が送電網会社に特化し、国営の原発会社と、民営化されたもろもろの発電所から電力を調達して売るというイメージは、悪くありません。調達価格はオークションか何か、競争的なメカニズムで決まるのでしょう。これに経済学者が反対する理由はありません。

おそらく、調達価格は需給によって大きく変動します。消費者や企業が支払う電気代は、盛夏と厳冬には高く、それ以外の季節には安く、ということになるのではないでしょうか。これまた経済学者的には文句ないけれど、マスコミが作り出す消費者は文句言うでしょう。

送電網会社は、発電所に対しては買手独占、消費者に対しては売手独占ですから、その意味で現状とほとんど変わりません。ただ、電力をどこからいくらで調達しているかが明瞭になり、経営の透明度が増すというメリットはあります。

国営の原発会社との関係は双方独占になりますから、利益の調整を原子力で作った電力を政府から買う価格の交渉で行うことになるでしょう。

私は、再生エネルギーへの投資は壮大な無駄で、これに政府がカネを出したら巨額の財政赤字の元になると思っています。尖閣諸島購入じゃないけれど、これこそやりたい人は寄付をつのってやってもらいたいと思っております。

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http://www.nikkei.com/paper/article/g=96959996889DE1EAE4EAE5E6E4E2E2EBE2E0E0E2E3E09997EAE2E7EB;d=0;df=3;e=969997EAE2E2E2;b=20120510;c=DM1

<第一に、東電の破綻回避は、投資家のガバナンス(統治)に対する責任を免除してしまったことを意味する。すべての電力会社において、原発事故を未然に防ぐ責任の一端は株主と債権者にあるにもかかわらず、今回破綻を回避すれば、他の電力会社の株主は事故防止の責任を問われなくて済むと考えるだろう。

 第二に、現在のように事故関連負担から切り離されないと、東電の生産性が低下し続ける。

 まず、労働環境である。報道によれば、優秀な若手が続々と他社に移籍しているという。人材が流出する最大の理由は、東電が除染、廃炉の費用負担の責任を負っているため、破綻の可能性が高い会社であることだ。

 次に、経営不安を抱えた状況では、資金調達は極めて困難であろう。東電の火力発電の多くが更新期を迎えている。例えば千葉県の袖ケ浦火力発電所は、最新式に比べて燃料を約25%過剰に使っている。発電量増加や二酸化炭素の排出抑制のためにも建て替えの必要があるが、銀行が経営不安を抱えた会社に融資することは難しいだろう。

 このように、東電を破綻前国有化の状態に置き続けると、税で事故費用を賄う場合に比べて、結果的に国民負担が上昇してしまう。

 菅政権が目指した「破綻前国有化」は、「破綻後国有化」に比べて劣った選択肢であった。破綻を回避して資本注入を際限なく続けるのではなく、早い段階で国が事故費用を負担することにして、東電を破綻させたうえで国有化し、再建すべきだ。

 仮に「破綻後国有化」を選択する場合には、以下の再建の道筋が考えられる。

 (1)東電が払いきれなかった賠償・除染・廃炉の費用は、新設のエネルギー税を原資として国が責任をもって引き継ぐ。廃炉処理は国が管理し、廃炉技術革新の核とする。

 (2)福島第1原発以外の原発は国が買い取り、国営の原子力発電会社として経営する。これにより、既得権益者との癒着を切り離せる。

 (3)原発以外の発電所や発電関連施設と権益は売却する。

 (4)残った東電本体は、送電会社と給電指令所を合わせた国有企業になる。数年後に上場されて、全く新しい株主と経営者により新生東電が出発する。原発事故の負担から切り離された、人材が集まる会社になる。

 電力はスマートグリッド(次世代送電網)、再生エネルギー、シェールガス(地中の岩盤層に含まれる新型天然ガス)など、今や最も可能性に満ちた分野だ。資産売却と破綻後国有化によって新たな競争環境が実現すれば、東電社員を含めて、電力に関わる人々には大きなチャンスが出現しよう。>