「わかりにくい」選挙制度の方が、バランスのとれた良い制度である

私は、この案は悪くないと思います。

しょせん、いかなる選挙制度も一長一短です。

現行の衆院選挙制度の問題点は、少数意見が著しく過少代表されることと、重複立候補のおかげで選挙運動さえしていないヘンな人が比例代表で当選してしまう、いわゆる「チルドレン」現象です。

重複立候補は何のためにあるかというと、二大政党は有能な政治家を繰り返し当選させて議員としての能力を蓄積させる必要がありますが、小選挙区制では、それが難しい。そこで、小選挙区で敗れた候補を自動的に復活させるために、重複立候補があるのです。これに対して、「有権者によって落とされた候補が復活するのはおかしい」という批判がある。

要は、(1)政権選択の安定性、(2)政権交代の可能性、(3)少数意見の反映、(4)議員能力の蓄積、(5)チルドレンの排除、という5つの基準を、どうバランスよく反映させるか、というのが選挙制度選択の問題です。

「わかりやすい」選挙制度というのは、これら5つの基準のうち、どれかを無視するという欠陥を持っています。見かけはすっきりしていない、「わかりにくい」制度の方が、全体としてバランスのとれたものになります。

純粋小選挙区制は、(1)、(2)を重視して、(3)~(5)を無視する制度です。

これに対して比例代表制は、(3)、(4)において優れているが、(1)、(2)が失われる。ギリシャを見ればわかるように、それぞれ「お山の大将」が出てきて自分の政党を作ることが容易になりますから、選挙後に連立交渉がまとまらなかったり、少数政党が連立離脱して政権崩壊したり、ということが日常茶飯事となる。

中選挙区制は(2)以外についてはほぼ満たしており、バランスのとれた制度であると思います。しかし、どうしても政権交代が必要、というのが最近のマスコミ論調です。

さて、今回の民主党案ですが、小選挙区制をベースにしており、(1)(2)についてはほぼ満たしています。一部、連用性を取り入れたことによって、これまでより小党の議席は増えるので、(3)についても改善されています。同時に、残りの比例代表併用制定数で重複立候補が可能なので、効果は弱まるが(4)も維持されている。もちろん、併用制の定数が減るので、(5)は改善する。

そもそも、(4)議員能力の蓄積と、(5)チルドレンの排除は、両立しません。議員能力の蓄積を重視すれば重複立候補が必要で、必然的にチルドレンも増えてしまうというジレンマがあります。

併用制の定数を減らし、連用性の割合を高めれば、(4)は弱まるけれど、(3)と(5)は強化されます。連用性の割合を十分低く抑えれば、政権選択が不安定化することはありません。今回の「35」というのは、ちょうどいいのではないでしょうか。

というわけで、細かく見ると、今回提示された案は、よく考えられているのです。

公明党が冷静に考えて、この案を受け入れることを望みます。

連用性は確かに「わかりにくい」ですが、欧州では広く採用されている制度であり、日本の裁判所が、そう簡単に違憲と判断する可能性は低いと思います。

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http://blogos.com/article/41479/

<昨日、民主党が国会に提出した衆院選挙制度改革法案には、公明党が主張していた比例代表の連用制が盛り込まれたからです。この連用制は、1993年の政治改革でも民間政治臨調が提案したことがあり、決して新しいアイデアではありません。
 今回民主党が単独で提出した法案は、衆院小選挙区で5、比例区で40の計45議席を削減するというものです。比例区については定数140のうち35議席分について「連用制」を採用し、現行の11ブロックは全国比例に改めるとしています。
 この選挙制度に基づいて、2009年衆院選の結果から試算すると、民主党は87から47へ、自民党は55から30へと激減し、逆に、公明党は21から29へ、共産党は9から17へ、社民党は4から7へ、みんなの党は3から8へと大幅に増え、幸福実現党も1議席を獲得する計算だといいます。

 私の選挙制度についての基本的立場は、最悪である小選挙区制以外、どのような制度も検討の対象になるというものです。連用制も、小政党が有利になるという点で、小選挙区制に比べればましな制度だといって良いでしょう。
 ただし、この制度には、次のような問題点があります。第1に、『朝日新聞』の記事で引用されているように、有権者小選挙区で票を投じれば投じるほど、比例区での議席が減ってしまうという形で、やはり民意が大きく歪められるという点です。
 第2に、これも民主党内の声として『朝日新聞』が紹介しているように、制度が複雑で分かりにくいという点です。とりわけ、今回の案では比例区全体が「連用制」になるのではなく、その一部である35議席だけに導入されるという形で、さらに複雑になっています。
 第3に、法律論としては、このような小選挙区「反比例代表」並立制によって選出された議員が、憲法前文にある「正当に選挙された国会における代表者」と言えるのかという問題があります。選挙後に提訴されれば、このような問題が争点となり、憲法違反とされるかもしれません。

 さらに、この問題を考えるうえで重要なことは、そもそも、何故、小政党への配慮が必要とされるのかという点です。それは、小選挙区制が大政党に有利な制度だからです。
 この制度的欠陥を是正するために、比例区で小政党に有利になる「連用制」を導入しようというわけです。つまり、小選挙区での歪みを、比例区での逆の歪みによって是正するということです。
 それなら、もともと歪みを生むような小選挙区制をなくせばいいじゃありませんか。そうすれば、比例区で是正する必要はなくなります。>