東大の推薦入試に賛否

この問答を見ると、推薦入試は前途多難、という気がしてきますね。

「一般受験の東大合格者レベルの高得点を求めるのであれば、アドミッションポリシー(大学が期待する学生像)に基づく選抜という推薦入試の狙いと矛盾してくるのではないか」

と言うけれど、特定の科目以外は著しく学力の低い子を受け入れてしまうと、単位認定をどうするかという問題が生じてくる。場合によっては卒業が困難な状況になる。

特に日本の場合、あらかじめ専門課程で専攻する分野が入学時に決まっているため、逃げ場がない。必修科目でどうしても単位が取れないようでは、卒業は覚束ないですよ。

このへんが、入学後にいろいろな科目を取ってからメジャーを決めることができるアメリカとの違い。得意なものだけまとめて専攻として事後的に選択できれば、不得意科目があっても何とかなる。しかし、日本の場合、最初から囲い込んでしまう学部制度と、自由な発想の若者を求めるというイメージに整合性がないんですよ。

**************************************************************

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130510/edc13051007480000-n1.htm

東京大学が平成28年度から導入する推薦入試。受験学力は高くても、学習意欲の希薄な学生が目立つため、特定分野で突出した能力を持つ学生を獲得するのが狙いで、「秋入学」に続く改革だ。2次試験の後期日程を廃止して100人程度を募集、高校長の推薦や面接などで合格を内定した後、センター試験の結果を見て正式に合格通知を出す。導入に賛同する全国高等学校長協会会長の及川良一氏と、批判的な東京学芸客員教授藤原和博氏に意見を聞いた。(河合龍一)

 ■及川良一氏「グローバル人材の育成」

 --東大の推薦入試導入について、どう考えるか

 「産業界から大学に求められているグローバル人材の育成は日本社会の大きな課題。日本の大学の頂点に立つ東大自体も、世界の大学の中で低迷し、目的意識や学習意欲が希薄な学生も少なくないと指摘される。タフな人材育成という観点から入試改革に手を付けた東大の狙いは非常に理解できる」

 --推薦入試は多くの大学で導入されてきたが、縮小傾向にある。今なぜ、推薦入試なのか

 「非学力選抜のため、基礎学力が不足しているという問題があるほか、手間がかかる割には期待された効果がないというのが、推薦入試やAO入試縮小の動きの大きな理由だと思うが、やり方次第で大きく変わる。ある大学では思考力や学習意欲などを重視した推薦・AO入試で入学した学生の方が、一般受験の学生より伸びるという結果が出ている。重要なのはやり方だ」

 --具体的にはどんな選抜方法が望ましいか

 「東大の推薦入試は完全な非学力選抜ではなく、『大学入試センター試験で、一定水準をクリアした者』という条件を付けている。この一定水準について、一般受験の東大合格者レベルの高得点を求めるのであれば、アドミッションポリシー(大学が期待する学生像)に基づく選抜という推薦入試の狙いと矛盾してくるのではないか。生徒を推薦する高校側の立場からは、センター試験の一定水準は参考資料程度とし、思考力や判断力、表現力など知識の活用能力が高い生徒、特定の分野で優れた能力を有する生徒、学習意欲と目的意識が高い生徒を選抜してほしい。合格できなかった場合でも、東大のアドミッションポリシーに及ばなかったと納得されるような選考であってほしい」

 --政府の教育再生実行会議でも入試改革はテーマの一つになっている

 「昨年、文部科学省が発表した大学改革実行プランでの入試改革の目指す方向性は東大と同じ。教科の知識を中心としたペーパーテスト偏重による一発試験的入試を改め、志願者の意欲や能力、適性などを多面的に評価する方法だ。しかし、そういう入試を実施できる大前提は、高校教育の質の保証にあると思う。高校進学率が98%を超え、大学入試の仕組みも多様化する中、少数科目入試が多くなり、必履修科目でも受験科目でない科目は勉強しないといった高校生の現実もある。高校教育で質の保証ができていないと、一発試験的テストで学力担保を図るという悪循環に陥る。大学側の入試改革と、高校側の教育の質を高めて学力を保証するという双方の取り組みを同時並行で進めていく必要があると思う。東大には、入試改革に一石を投じるような推薦入試を期待したい」

 ■藤原和博氏「入試改革よりも学び方」

 --東大の推薦入試導入について、どう考えるか

 「秋入学への全面移行なども含め、東大が現状に危機感を覚え、改革しようとしていること自体は評価するが、推薦入試については疑問だ。推薦入試やAO入試は、多くの大学で手間がかかる割には成果が見えないといった批判や反省がなされてきた中で、東大の教授陣だけが生徒の将来性を見極める眼力を持っているとは思えない。よく分からない基準で、よく分からない生徒を推薦枠で採るというのはいかがなものか。不透明さがぬぐえない」

 --どういう入試改革が必要だと考えるか

 「推薦入試で100人を採るくらいなら、3つの方法を提案したい。1つは『アジア枠』で、タイやインドネシアなどのエリート層や王家の子弟などを優先的に採ること。将来は間違いなく母国でリーダーになる人たちとネットワークを作ることで日本の安全保障に寄与し、国益にもかなう。2つ目は『天才枠』で、東大の中でも特に優秀でユニークな教授が自ら発掘した将来を嘱望される天才を採ること。中学生や高校生の飛び入学も認める。特定教授に大きな権限を与えることになるが、その代わり、芽が出なかったら責任を取る。最後は『資産家枠』。極端に言うと、年間1億円を大学に寄付できる資産家の子弟を採る。毎年100億円集まれば、研究費も増え、環境も格段によくなり、学びの質が上がることで東大生全体の最大幸福につながる。推薦入試だと、どれほどの公正さで、東大全体に対してどれほどの付加価値を生むのか非常にあいまいだ」

 --現行の東大入試について、どう考えるか

 「東大の入試問題は、単に知識偏重で重箱の隅をつつくような落とすための問題ではなく、思考力や活用力のある頭の良い生徒を採るために考え抜かれた良問だ。運や勘、推理力も必要で、あの試験に合格したという事実は高く評価されるべきだ。企業側にとっても、いいスクリーニングになるので、今後も一番良い入試問題を作り続け、合格資格として与えてほしい」

 --東大改革に必要なことは何か

 「入試改革よりも必要なのは東大に入ってからの学び方だ。近年、米ハーバード大など世界の一流大学では、MOOC(ムーク)といって非常に優秀な看板教授の授業をネットで無料公開する動きがある。優秀な学生を引きつけようという狙いだ。まだ単位を取れるレベルまでいっていないが、将来的には大学間の垣根を越えて単位取得が認められるかもしれない。つまり『東大卒』という経歴に意味はなくなり、どの大学のどの授業の修了証を持っているかが重要になる。東大だけの問題ではないが、入学後に多様に学べるシステムを構築することが必要だ」>