やっぱり非不胎化は必要らしい

9月27日(月)日経新聞「経済教室」渡辺努論文の元ネタはこちらですね。サワリを引用しました。

翁・白塚は(ということはつまり同調する岩本さんも?)「必ずしも正しくない」とはっきり言っている。

おやおやおや。

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http://www.ier.hit-u.ac.jp/%7Eifd/doc/IFD_WP45.pdf

<不胎化された円売り介入は,通貨当局(外為特会+
日銀)と民間部門との間で円建て債券とドル建て債券
を交換することに他ならない。一方,不胎化されない円
売り介入は,不胎化された介入と追加的な円資金の供
給を結合させたオペレーションである。追加的な円資
金の供給が為替に対して追加的な効果をもつとすれば,
不胎化されない円売り介入の方が不胎化された介入よ
り大きな効果をもつはずである(詳細は例えばSarno
and Taylor (2001) を参照)。

しかしこの議論は金利が正の水準にあるときの話で
ある。金利がゼロであれば,さらに追加的な円資金を
供給しても金利がゼロより下がるわけではないので,
追加的な円資金供給の効果はない。別な言い方をする
と,金利がゼロの状況では円資金の限界効用はゼロで,
円資金の供給量は飽和点に達している。したがってそ
れ以上円資金を供給しても均衡に影響を及ぼすことは
あり得ない。このときには,円売り介入が不胎化され
ているか否かは,均衡に影響せず,したがって為替相
場への効果も不胎化されているか否かに依存しない。
Okina and Shiratsuka (2000) やSpiegel (2003) などは
ゼロ金利下では介入が不胎化されているか否かは関係
ないと主張しているがその論拠はこれに沿ったもので
ある。

しかし流動性の罠の下での最適な金融政策に関する
一連の研究は,上の議論が必ずしも正しくないことを
示している。

いま経済が流動性の罠にあり短期金利
ゼロであるとする。このとき通貨当局が円売り介入を
行い,その介入が不胎化されないとする。議論をわか
りやすくするために,ここでは,介入によって供給さ
れた円資金は恒久的に市場に残ると仮定する。恒久的
に市場に残るということは,経済が流動性の罠から抜
け出して正常化した遠い将来の時点でもその資金が市
場に残っていることを意味する。経済が正常化した時
点では金利は正の水準に戻っているはずだから,円売
り介入による円資金の追加供給はこの将来時点の金利
を下げる効果をもつ。この金利低下は将来時点で円安
を発生させるはずであり,そのことが現在時点で市場
参加者の予想に織り込まれると現在時点での為替が円
安方向に変化する。このような期待チャネルは円売り
介入が直ちに不胎化されてしまう場合には働かない。
その意味で,現在の金利がゼロであったとしても,介
入が不胎化されているか否かによって為替相場への効
果が異なる。

上の議論は次のように整理することができる。まず
円売り介入と当座預金残高の関係を次式で表す。

Rt = ρRt􀀀1 + βIt􀀀2 (6)

パラメターβ がゼロであれば円売り介入が完全に不胎
化されていることを意味する。しかしβ が正であれば
円売り介入は完全には不胎化されていない。その場合
には,ρ の値が重要な意味をもつ。仮にβ > 0 ではあ
るもののρ = 0 の場合には,円売り介入は介入当日の
(正確には介入の決済日当日の)当座預金残高を増加
させるが,その翌日の当座預金残高には影響しない。
これは非不胎化が瞬間的なケースである。この場合に
は,不胎化か否かの違いは介入当日の当座預金残高に
しか現れない。将来時点の当座預金残高について異な
る含意をもつことはないので不胎化されてもされなく
ても為替相場への影響は同じである。

これに対してβ > 0 で,なおかつρ = 1 の場合には
不胎化か否かの差は大きい。この場合には,円売り介入
は介入当日の当座預金残高だけでなく,その翌日,翌々
日…と,遠い将来時点の当座預金残高にも影響を及ぼ
す。その意味で非不胎化は恒久的である。この場合に
は,不胎化されない介入は遠い将来時点の金利に影響
を及ぼし,それを通じて今日の為替相場にも影響を及
ぼす。したがって不胎化か否かは今日の為替相場に異
なる影響を及ぼす。これはSvensson (2000) やJeanne
and Svensson (2007) などが念頭においていた状況で
ある。>