黒田総裁会見

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<日銀は11日開いた金融政策決定会合で、長期金利の上昇を抑制するための追加措置の導入を見送った。市場では日銀が金融機関に低利資金を供給する「固定金利オペ(公開市場操作)」を拡充するとの期待が膨らんでいたが、日銀は動かなかった。黒田東彦総裁は記者会見で緩和効果が徐々に浸透していくとの見通しを表明。従来の政策手法の「弾力的な運用で長期金利の変動を抑制していくことは可能だ」と自信をみせた。

固定オペ長期化「現時点では必要はない」。日銀の黒田総裁が金融政策決定会合後に記者会見(11日)
 今回の決定会合の最大の焦点は日銀が長期金利の上昇抑制へ追加策を打ち出すかどうかだった。

 市場では日銀が固定金利オペで低利資金を金融機関に貸し出す期間を現行の最長1年から2年以上に延ばすとの見方が浸透しつつあった。見送れば株安・債券安・円高が加速するとの懸念も広がり、日銀に追加策を突きつける「催促相場」の様相を強めていた。

 固定金利オペを延長すれば、金利が急上昇した際に金融機関に2年程度の長めの低利資金を供給できるようになる。資金繰りに余裕が生じた金融機関が国債を買いやすくなり、金利上昇を抑制する効果が期待できる。

 6月初め、日経平均株価が1万3000円を割り込み、一時1ドル=94円台まで円高が進むなど金融市場が不安定になる中で、日銀内でも固定金利オペの2年延長案が浮上。導入時の効果と副作用の検証が重ねられた。黒田総裁も同日の記者会見で「(決定会合で)議論があったのは事実だ」と認めた。

 しかし最終的には「現時点では必要はない」と導入を見送った。理由のひとつが、今回動けば「戦力の逐次投入はしない」との黒田日銀の哲学に反する恐れがあったためだ。市場が動揺するたびに日銀が小出しの追加策を重ねれば、市場の信認を失いかねない。

 さらに黒田緩和の狙いと矛盾する恐れもあった。長めの低利資金を金融機関に供給して国債購入を促せば金利は下がったとしても、日銀が金融緩和で目指す株式や銀行貸し出しへの資金移動を妨げる恐れがあるためだ。

海外では、欧州中央銀行(ECB)がギリシャ危機に際して低利資金を金融機関に供給して国債購入を促した事例があるが、あくまでも危機対応。日銀内でも「本格的な対応を迫られる金利上昇はまだ先だ」(幹部)との声が上がる。

 日銀が金融緩和で狙う貸し出し増加が進む兆しもわずかに見え始めた。民間銀行の融資は5月に前年同月比2.1%増と4年ぶりの高い伸びを記録。固定金利オペを延長すれば、その兆しをつぶす恐れがあるとの判断も働いたもようだ。

 日銀が重視する市場の期待インフレ率も、一時1.9%まで上昇した後、足元では再び緩和直後と同水準の1.4%近辺まで低下した。黒田緩和が当初もたらした円安・株高の効果も一服し、2%の物価上昇目標の達成に向け、日銀は正念場を迎えつつある。

 今回の日銀の対応を巡って、市場の評価は分かれた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二氏は「市場が追加緩和を日銀に要求する『催促相場』では黒田日銀は動かないと印象づけた」と前向きに評価する。

 しかし、その後の欧州市場では円が一時96円台まで上昇し、大阪証券取引所の夜間取引では日経平均先物が1万3000円を下回る場面もあった。「市場が不安定になるリスクはなお残っている。日銀には市場をにらんだ柔軟な対応が求められる」(明治安田生命保険の小玉祐一氏)との声も上がっている。

 「4月の決定会合で決めた量的・質的金融緩和を着実に推進していくことが、物価の安定の一番の近道ではないか」。黒田総裁は記者会見であえて「原点回帰」を強調した。>