日本の音楽市場はガラパゴス化している?

グローバル化グローバル化とかしましいが、私はこと文化となるとローカル化していると思っている。文化ってのはだいたいその方がいいんだ。

****************************************

http://realsound.jp/2014/02/post-324.html

 ローリング・ストーンズが8年ぶりの来日公演を行っている。また昨年にはポール・マッカートニーが11年ぶりの日本公演を行い話題となった。このところ洋楽ベテランミュージシャンの来日が続いているが、一方でそれ以外のリアルタイムで活躍している若手から中堅にかけてのミュージシャンについては、フェス以外での来日がめっきり減ってしまった感もある。かつては毎年のように来日公演を行っていたが、久しく日本に来ていないミュージシャンも多い。世界的なブレイクを果たしたことも要因ではあるが、コールドプレイなどがその一つだろう。なぜ彼らのライブが日本では行われなくなってしまったのだろうか。

 海外ではそれなりに知名度のある洋楽ミュージシャンが来日公演を行わなくなった、その理由はとても簡単で日本では十分な集客が見込めなくなったからだ。ポール・ウェラーは以前インタビューで以下のような発言をしている。「最近の日本の洋楽ライブは客入りが悪くなっている。他のバンド連中も『最近の日本ツアーはさっぱり客が入らなくなった。どうしたんだろう?』ってみんな言っているし、前回の俺の来日ツアーも客入りの悪さに実はびっくりしたんだよね。だから当分来日は控えようと思っているんだ」(RO69より引用)。また全世界で4000万枚以上のアルバム売り上げを記録するカナダを代表するロックバンド、ニッケルバックも 「日本人は自分の国の中で流行っている音楽にしか興味が無い。 よその国で流行っている音楽に興味が無いみたいだ」(『BURRN!』誌より引用)といった旨の発言をしている。日本が世界の音楽トレンドから外れ、ガラパゴス化している面は否めないようだ。

 そもそも洋楽自体の売上が日本では芳しくない。日本レコード協会の発表しているCDアルバム生産金額の推移をみると、全体に占める洋楽の割合が2004年の32%から2013年には19%まで減少している。(日本レコード協会のホームページより引用)ただでさえ音楽市場が縮小しているなか、いわゆる「洋楽不況」は相当深刻なステージまで進行しているのである。またそのマーケットを支えている年代が日本は他国に比べて高齢化しているという事実もある。少し古い資料になるが2009年に経済産業省の発表した「音楽産業のビジネスモデル研究会報告書」によると主要マーケットにおける年代別構成比が日本は先進4カ国(日本、アメリカ、ドイツ、イギリス)の中で最も高齢化しており、50代以上の構成比が32%を占めるという。(経済産業省のホームページより引用)あくまで私感だが、外資レコード店の洋楽コーナーで見かける客層は、40代以上がほとんどを占めているという印象がある(もちろん若い人ほどネット通販やダウンロードを多く利用しているという事実もあるが)。以上のことから「日本ではそもそも洋楽が売れない」「その売上を支えているのは中高年が中心」ということがわかる。

 上記の事実を踏まえると、ベテランミュージシャンの来日が続く一方で、世界的にはセールスのある若手〜中堅ミュージシャンの日本公演がなかなか行われないことにも合点がいく。日本で行われる洋楽ミュージシャンのライブは主に中高年が観に行くものであり、彼らが好んで耳にするのは若いころに青春を捧げたミュージシャン。結果、レディー・ガガジャスティン・ビーバーなど一部の例外を除いて、日本で行われる来日公演の大半がベテランミュージシャンのものになるのである。音楽ライターの柴那典氏は「洋楽ロック雑誌のカルチャーにおいては90年代で時計の針が止まってしまった。10代~20代の音楽ファン、特にロックファンがリアルタイムの洋楽を聴かなくなっている」(DrillSpin columnより引用)と指摘しているが、発言の通り「リアルタイムの洋楽」を支えるリスナーが日本では少なくなっているのだ。

またライブを取り巻く環境が2000年を前後に大きく変化したことも要因に挙げられる。東洋経済オンラインの取材にコンサートプロモーターズ協会の今泉裕人事務局長は次のようなコメントをしている。いわく「90年代まではCDさえ売れれば採算度外視で赤字でも問題なかった。企業からの協賛金も潤沢に出ていた。しかしCDが売れなくなりミュージシャンはライブで収益化を図るようになっている。そこではどれだけ集客できるか、グッズ等で売上を稼げるかが重要になった」(東洋経済オンラインより引用)という。このような点からも来日公演を行うことはミュージシャンにとってコストパフォーマンスの悪いことなのである。

 環境としては決して恵まれたものではない現在の日本の音楽市場。しかしその中でも存在感をみせるミュージシャンが出てきているのは一筋の光明といえるかもしれない。昨年に来日ツアーを行ったジェイムズ・ブレイクは東名阪の3か所でいずれもチケットが争奪戦になった。またホステス・エンタテインメントが定期的に開催している『Hostess Club Weekender』は回を重ねるに連れて集客を伸ばし、先日は新木場STUDIO COASTで二日間の公演を成功させた。少しずつではあるが、洋楽を聴く新しい世代が育ってきているのは心強いことだ。また近々にも聴き放題ストリーミングサービスSpotifyが上陸するという噂もある。このようなサービスがかつてのFMラジオのように若いリスナーと洋楽の「出会い」のきっかけをつくり、再び洋楽シーンが盛り上がりを見せるようになる。ベテラン以外のミュージシャンも来日するようになる。そんな日がやってくることをイチ音楽ファンとして願ってやまない。
(文=北濱信哉)